テキスタイルデザイナーから
どうして作家に転進したのですか?
ブランドの仕事は工場生産する製品のプラン、つまり下絵を作ること。現代社会の多くの仕事がそうであるように、頭を使って身体を使わないのよ。もっと自分にとって自然なことがやりたかったの。本当の物を作り出す喜びって、「ゼロから完成までの全ての工程を、自分自身でやってこそ」得られるものじゃないかしら?
1点物と言えば、それまでは古いままの伝統工芸だった。「『手描きの工芸でファッション性があって、全工程を自分でやる』という、今までに無いものを自分で作ってしまえばいいんだ!」と思いついたの。ドン小西さんに「誰もやっていなくても、本気なら出来るはず。作家になってみたら?」と言われたことが最大の決め手だったわ。
「手染め」と言うと「藍染め」のように、色液に浸して色を着ける染め方が一般的だと思うのですが、
どうして絵を描くように染めることができるのですか?
浸して色をつけるのは「浸染」という方法なのよ。私の方法は独自のものですが、基本は着物の友禅染めと同じで、「布を紙のように広げて空中に張って、その上に水彩画を描く」とイメージしてください。その絵をそのまま蒸して、蒸気で定着させてしまうのです。
使用している染料とは、
具体的にはどんなものなのですか?
高級呉服に使われている粉状の染料を、薬品と温水で溶かして、カラーインクのようにしてから描いています。絵を描いた後に蒸気を当てないと色が定着しないので、手間はかかるの。でも、この酸性染料が一番鮮やかに発色して、自由に色を混ぜることができるので、私はこれを使用しています。
有名人のお客様はいらっしゃいますか?
福田前首相夫人と高村前外務大臣婦人。俳優の柳生博さんと有希子夫人。女優の浜三枝さん。絵本作家の鈴木康二夫人。3回芥川賞候補に上がった、作家の魚住陽子さん。フェミニズムの旗手の上野千鶴子さん。3分間クッキングで活躍されていた加藤久美子さん。メゾソプラノ歌手の荒牧小百合さん。池坊のお花の師範の中野幽山先生。高校の同級生の女優の一柳みるさん。
今まで、自分の作品をより多くの方々に知ってもらうことに興味がなかったんですが、今後は作品が似合いそうだな〜と思う方々に、こちらから作品提供をすることも考え始めています。
お手軽プライスで手描きものが市販されていますが、同じ手描きではないのですか?
私の作品と明らかに違う点は、「手描き品」という名で市販されているものの多くは、蒸しや水洗いの必要の無い布に、直に色を着けて行く簡便な手描きで、複雑な混色やぼかしや滲み、デリケートな色は出せないということです。水彩画や水墨画のような微妙な美しさは、市販品では出せないのです。
素材の布はどこのものを使っていますか?
安いアジアの素材は一切使ってません。私が使っているのは、イタリアとフランスと日本の布です。粗い素材より繊細で高級感のある素材が好きなんです。水洗いしたら見られないものになってしまう、ということもないですから。
kikuko のアート = wear (着る物) を作る上で
心がけていることは?
流行に左右されない、着物のような服を作りたいわ。サイズはフリーにして、着る人それぞれのbodyで表情の変わる服。一枚の布を切り刻まないで、着る物にする可能性を追求しているの。「絵を纏う」・・・そんな服を考えています。表と裏、上と下、何通りにも着られる服があったらステキじゃない?
誰のクローゼットを開けて見てみたいですか?
「世界中で、クオリティ高い服が一番沢山ある所」と言われる、メトロポリタン美術館の、「アートコスチュームの収蔵庫」をゆっくり見てみたいわ。
旅行をするなら、どこへ行きたいですか?
私にとっては、旅行が一番好きな贅沢だし、作家として、常に新しい経験と刺激を求めているから、世界中を旅したいわ。行ったことのない国は、特に行ってみたいのよ。